「一戦必勝!!この一球は絶対無二の一球なり」
5月25日、朝6時に目が覚める。
ホテルの部屋はクーラーで若干ひんやりしていたが、目を覚ますには丁度良い温度。
ベランダから見るタイの空・・・・太陽が照らして眩しい。
天気は晴れて、絶好の野球日和。
ついにこの日がやってきたのだ。
スリランカが派遣国に決まり、要請内容を調べて夢を抱いてから2年以上が経っていた。
「必ず、スリランカナショナルチームを率いて結果を残して、そしてスリランカの新たな野球の歴史を築いてやる!!!」
しかし、思い描いていた理想は現実の厳しさと予想外の状況にいつの間にか風化され、いつの間にか夢を忘れかけていた。
いつの日だったか、日本に帰ることを強く望み、また違う夢を探そうとも考えたことだってある。
でも多くの仲間や選手が支えてくれたお陰でスリランカで生活し続けることができた。
そんなある日、やっとチャンスがやってきた。
嬉しかった、そして必死だった。
何よりも選手がそれに応えてくれていたのが嬉しかった。
そして、いよいよそんな選手達と夢の舞台に立つ。。。。
初戦の相手はタイ。
優勝候補の一つ。
このタイ相手にスリランカは国際大会に参加してからU-18で一勝したきりで、残りの試合は一度も勝っていなかった。
前回の大会では序盤6-0とリードしていながらも、アミラがパキスタンの環境に適応できず体調を崩し試合中に倒れ途中降板、まさかの逆転負けを喫し、悔しい思いをした。
いつもネランカやアミラが悔しそうに話してくれた。
そして選手にとってもリベンジする機会がやってきた!!!!
自分はこのタイ戦こそが決勝トーナメントまで駒を進めれるかどうか鍵になる試合と思っていた。
「今までの対戦のイメージからしてタイは絶対油断している。アミラや他の選手たちを万全に仕上げておけば必ず勝てる!!」そう確信もしていた。
タイが初戦の相手と知った時から、タイ戦は先発がアミラ、パキスタンはチンタカと決めていた。
大会二週間前からそれをチームのメンバーには話し、アミラ、チンタカには細心の注意を払いながら調整をさせた。
アミラは前日投げた方が球が走るので香港との練習試合後、マウンドで軽く投げ込みをさせた。
走り込みやストレッチなどのトレーニングから食事まで、疲れが残らないように、そして試合では体がキレるようにアドバイスしながら準備を進めた。
準備は整った!!!!
会場に到着すると、開幕戦のミャンマーとカンボジアが試合をしている。
この試合をみながら更に気持が昂る。
そして、野球場で野球を見る久しぶりの感覚とここで野球ができるという喜びも感じていた。
選手もテンションが上がる!!!!
試合が終了し、開会式。
タイのムエタイの戦士が登場し、セレモニーを飾る。
会場が一気に盛り上がる!!
そしていよいよ選手入場。
スリランカの選手たちはネランカが作った国旗を持ち、笑顔で行進。

この後すぐに試合が控えているとは思えないくらいのリラックス。
さすがスリランカ人。
そしてスリランカ、タイ、インドネシア、ミャンマー、パキスタン、カンボジア、マレーシア、香港の全8チームが揃った。
この8チームで7月に成田で行われるアジア選手権への出場権をかけて争われる。
どのチームのどの選手もこの舞台で戦えることを嬉しく思いそこに立っていたに違いない。
だって、どの選手も笑顔ですがすがしい表情だったから。
舞台は整った。
開会式が終了し、いよいよ俺達の試合が始まる。
マネージャーのラジットが今大会予選3試合分のコイントスをする。
なんと全勝!!!
すべて後攻に決まる。
ついてるようだ!!!!
体をほぐすためにキャッチボールを終え、ベンチ前での軽いノック。
そして、日本でもよく行われる、試合前のシートノック。
選手は動けてるか?緊張してないか??
一人一人の動きを確認しながら行う。
「大丈夫!あれだけ練習してきたじゃないか!!」そう言わんばかりの自信に満ちた表情。
「大丈夫だ!!!やれる!!!!」そう思った。
ノックが終わり、全員で集まり確認をする。
サインや積極的にいくことなど。
そして気合いを入れる。
「いいか?一球一球大切にするんだ!!今くる一球が次もくるとは思うな!!!全て全力だ!!!!」
この一球は絶対無二の一球なり!!!!
「うおおおお~!!!」選手たちも叫ぶ!!!!
そして、我々は祈り誓った。
ガンマンピラがスリランカから持ってきた仏像と、スリランカ野球に初めてスポンサーとして協賛してくださったMARUSANのマネージャーの石田さん(大会が行われる前に病に倒れ亡くなられた)、そして昨年の2月に自爆テロで亡くなった野球の仲間達に全員で手を合せ勝利を誓う。
さあ、試合開始だ!!!
ナインがポジションへと散らばる。
先発のアミラがキレのいい球を練習からネランカのミット目がけ投げる。
いよいよだ!!
「プレイボール!!!」
初球、「ストライク!!!」
ベンチも盛り上がる。
焦らず、ゆっくり落ち着いていけば大丈夫。
そう思いながらアミラを見守る。
アミラはテンポよくストライクを投げ込み、あっという間に一番打者を追い込む。
「そうだ!!!」
そして、スライダーに一番バッターのバットが空を切る!!!
三振!!!!
幸先のいいスタート!!!
リズムに乗り一回、危なげなく三者凡退。
続く一回裏、初回の攻撃。
序盤に畳みかける攻撃をして楽に試合を運びたい。
しかし、相手の左腕軟投派の投手も隙を与えない。
2回まで0点に抑えられる。

負けじとアミラも3回を抑える。
「辛抱だ!!!」
そして、3回遂に打線に火が付く!!
それまでうまくかわされていた相手投手に対して、甘い球を見逃さず弾き返し、2点を先制!!!
2-0。
アミラも好投を続け、依然として点数を与えない。
6回、タイチームも投手交代。
継投策に出る。
しかし、その代わりッぱなを四番サミーラがライトオーバーの3ベース!!
あと50センチでホームランだった。
しかし、相手投手も粘り、サミーラが帰ってこれない。
2アウト。
ダメかと思いきやその時、キャッチャーがパスボール。
3点目を追加。
3-0とリードを広げる。
タイチームもこのまま引き下がれない。
球威の落ちてきたアミラを攻め立て、1点を返す。
しかし、アミラもスライダーを巧みに使い、相手の反撃をかわす。
そして3-1のまま最終回。
もうこのままアミラと心中するつもりで控えの投手にはいなかった。
1アウト、2アウトと積み重ね、そしてあと一人!!!
ベンチもハラハラしながら戦況を見つめる。
ツーストライクと追い込む。
タイも地元開催なだけに意地を見せたい。
そして、決め球はやはり、自信のあるスライダー!!!!
バットが回り、三振!!!!!!!
ベンチから選手やコーチが「わっ!!!!!」と叫び走っていく!!!
「勝った!!!!!!!!!!勝ったんだ!!!!!!!!!!!!!!!」
スリランカ野球の歴史に新たな一ページが刻まれた。
しかし、これが終わりでない、始まったばかり。
そう言い聞かせるものの、嬉しさが溢れてきた。
間違いなく大きな一歩を踏み出したのだった。



